烏山の不動産屋のお前へ。(前編)
突然思い出した腹立たしいことがある。
人生で腹がたったベスト5にランクインするレベルの出来事だった。
当時結婚前の妻、つまり当時の彼女と同棲し手狭になっていたため引越しを
検討していた。
我々は祖師谷大蔵に住んでいたが、烏山近辺への移住を計画していた。
烏山の理由は特に明確ではなかったが、スーパーがいっぱいあるらしい、
とにかく住みやすいというざっくりした噂をベースにしていた。
二人の都合がつく日曜日を前もって選び、予約し、そして当日を迎えた。
朝、私は少しどきどきしており(意味は不明)少し早めに起きて準備万端、
当時の彼女はのろのろして、私はイライラしていた。
そして小規模な戦闘が起こり、険悪なムードなまま、約束の時間(確か午前10時)
に間に合うように「わざわざ」タクシーで向かった二人だった。(なんと律儀)
定刻前に到着し、一応険悪なムードも少し雲間から光が差し込むように徐々に和らいでいた。
さわやかに不動産に入る。颯爽と、軽やかに。そして世間がうらやむ仲睦まじいカップルを装い、
ショップにはいる。
そこには、くしゃくしゃのスーツ。頭もたしか中途半端な坊主(ちょっと伸びた雑草みたいなの)、
そして白いワイシャツの袖は黒ずんでいる明らかにさわやかな日曜日の午前中とさわやかな
カップルに似つかわしくない男が待っていた。
「うわ、最悪だ。」一瞬で脳がそう察知する。
さらに、次の瞬間違和感を感じた。
その男はあきらかに「?あんたたち誰?」みたいな顔をしているのだ。
?
ん?
んん?
?
・
・・・・・
・
・・・
・
・
・・・
・
そう・・・・
こいつアポイント自体を忘れているのだ。
そういう時ひとって怒りより驚きが先に出てしまうんだね。
そーなんだね。
そしてさらにさらに、この男はサプライズをばらまいてくれる。
きょとんとした顔をしている老け顔だがおそらく20代前半のこの男。
あまりにきょとんとしているので、こちらが気をつかって
「本日10時に予約していました○○なんですが。。。。」というと、
な、な、な、なんとこの男、
「あ、あぁ!○○さん!ちょうどこの前にお会いしていた方も○○だったので~」
とのたまわりやがったのである。
はっきり言おう、私の苗字は○○だが、決して山田とか高橋とか田中とかそういうスタンダード系では
まったくない。正直、かなり希少価値が高く、いままで同姓の人間にあったことがないレベルなのだ。
わかりやすく鳥でたとえると絶滅危惧種の「トキ」ぐらい珍しいといっても過言ではない。
この男がのたまわっている戯言をトキでたとえると、こんな感じだ。
「いやぁ、今日朝起きたら、うち高層マンションなんだけど、そのベランダにあの、なんと
絶滅危惧種のトキがいたんだよねぇ~。そんでそのトキがエジプトのファラオの仮面を持ってきたんだ。」
ぐらい、ありえない話なのだ。
ものすごい怒りに震えながらも、自分の中で「もしかしたらこのくしゃくしゃの男は、数億分の一の確率の
シチュエーションにであってしまい、そのことを必死に伝えようとしているのではないか。」という気持ちが
2%ほど湧いてきたがすぐに消えた。
んなわけない。からである。
さぁ、どう料理してくれよぉ。このクソガキがぁ。
けど、最大限にこの男にダメージを与える方法が思いつかない。。。
ただただ時間が経過していった。
まぁ気をとりなおしてこのクシャ夫(くしゃお)23歳(ぐらい)にといかけた。
「まぁいいです。とにかく予約していた物件を見に行きましょう。」
このクソみたいな肉の塊から
「あ、はい、いま確認しますね~」とサウンドが聞こえてきた。